満ち潮◆Flood tide

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            心が壊れた夜には

            甘い砂糖菓子をたべて

            満ちてくる潮におぼれる

            飽和した呵責を中和するために



            街の背骨の上に

            赤い月が浮かんで

            海面を引っ張ると

            臓器の底の湿った井戸に

            昏い水が満ちる



            産道を通って

            脚のあいだに広がる海に

            いとけない言葉たちが放たれて

            波間にただよう

            無音のままで



            潮の濃度と釣り合うだけの

            甘さに浸って

            喉の奥へと叫びを押し戻す

            この残酷な世界に

            留まり続けるために




   
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  # by wind-walker | 2006-07-26 00:33 | 心象風景

発熱の夜◆Feverous night




               ブラインドの隙間を

               汗を滲ませて 
             
               這いのぼる月



               窓辺の寝台の上       

               金の花粉に背中を灼かれて

               うねる肢体



               発熱の夜に 燃え落ちる    

               夢のきざはし



               記憶の底で 沸騰する

               銀の水差し

    

               天井に群がる 

               蝶の羽音を耳に  

               眠りに落ちた夜

   

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  # by wind-walker | 2006-06-29 12:13 | 心象風景

廃墟愛◆Taste of decay

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            干からびた茎から緑を噴き出し

            壁伝いに伸び広がり、増殖を繰り返し

            くまなく覆いかぶさる

            蔦の旺盛な繁茂



            草茂る陰気な庭の片隅

            名も知れぬ赤い実に群がり、啄ばみ

            小躍りしてさえずる

            鳥たちの陽気な輪舞



            さらに

            枯れた棕櫚の梢を吹きわたり

            見えない世界の果てから、気前よく

            香りと喧騒を運んでくる

            風の爽快なひと撫で



            それら命あるものの前で

            すべもなく朽ちていく廃屋の

            美しくも無力な佇まい

            深く穿たれた二つの窓に

            夕陽の朱が灯るとき

            潰えた時の残照に

            私の胸は痛み出す



            あぁ廃屋の――

            ひび割れた土壁、踏み抜いた床板

            飛散したガラス、剥がれたペンキ

            止まった時計、錆びた金属

            瓦礫の廊下、壊れた遊具

            したたる水滴、苔むす絨毯

            漏れ入る陽光、朽ちた窓枠――



            それら物たちの墓場の

            夕闇に覆われるとき

            私は寡婦のように泣き崩れ
  
            寂しいひとつの影になる






           
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  # by wind-walker | 2006-06-12 10:02 | 心象風景

水没都市◆Water City

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              薄闇のなかで煙っているのは

              発光するわたしの、産毛にかかる氷雨

              ヒールを脱ぎ捨て、アスファルトに踏み出す素足は

              ぴしゃりぴしゃり

              水溜りに滲んだネオンを攪拌する

              ぐっしょりと水を吸ったドレスの裾は

              まるで死んだ魚類の、濡れそぼった尾びれのよう


              水に侵された都市の底では
 
              管という管が大水を吐き出し

              傘のない男たちは、地上へと走る

              (走った先で彼らは水の味のする飲料を

              そうとも知らずに飲み続けるのだ)


              水は世界を反転させ

              反転した世界の王は

              地下にある秘密の巨大水槽に君臨する

              王国の壁は厚いので

              放水路が放つ数億トンの水にも

              びくともしない
           

              水はいよいよ川のごとく街路を流れ

              池や堀や用水路さえも

              等しく川の一部になった

              やがて水は、わたしの脚から腰

              腰から胸

              胸から肩へと嵩を増し

              喉の奥へと押し寄せた

              こうしてわたしは内と外から

              水に溺れた




              反転した世界の底で

              わたしは最も下等な魚類となり

              地下王国の玉座の前にひれ伏すだろう
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  # by wind-walker | 2006-06-01 23:14 | 心象風景

変身◆Transformation in vain

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            ある日私は

            私でいることに耐え切れず

            いっそこの皮膚をすっかり剥いで

            別の生き物に生まれ変わろうと

            体の中心に一本の線を引き

            ひんやりとしたナイフの先で皮膚をなぞった

            すると刃が触れた切那

            皮膚から筋膜までめくれ上がり

            そのもも色の裂け目から

            小さな叫びが産まれ出て

            私の鼓膜へ飛び込んだ

            叫びはがらんどうの体の中で反響し

            微細な球体に分裂すると

            血流に乗って体の隅々まで運ばれていき

            細胞の一つ一つに入り込み

            DNAを書き換えようと企むのだけれど

            その行為を阻止する因子によって

            変身は妨げられた



            やがて私は裂けた皮膚を

            ひと針ひと針

            苦渋の糸で縫い合わすのだ
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  # by wind-walker | 2006-05-21 00:39 | 心象風景

土曜日のたてよみうた◆Lost love

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                き みの背を

                 よ ぶ声むなし

                  う せし恋の

                   は かなき終わり



                   ひ を数え

                  ま つ森影に

                 だ れ思う

                な みだあふれる





                や るせない

                 き てきの音に
  
                  そ ら青く

                   ば すは走るよ



                   つ み取った

                  く さの花束

                 ろ にくべる

                か いこんの日々
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  # by wind-walker | 2006-05-20 16:08 | 心象風景

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