カテゴリ:心象風景( 30 )

 

訣別◆Adieu

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       ごめんねという言葉 のみ込んで

       ただ君の暮らしの一コマ 思い浮かべ

       何もしてあげられないこと 少しだけ恥じ

       あとはもう 口もきかずに

       別々の景色見ていた



       さよならという言葉 つぶやいた

       たとえ出会ったことが まちがいだとしても

       何も感じない出会いより 意味があったと信じ

       あとはもう 視線も交わさず

       光年のかなたへ飛び去った



                              これでほんとうに さようなら

                             手にした石ころ 川面に投げて

                              きれいな気持ち 底に沈めた

                                 岸辺に水の輪 届いても

                               振り返ったりは しないから



       行き場のない小さな哀しみが

       草むらの奥で震えている
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  by wind-walker | 2006-02-14 23:25 | 心象風景

君が好き◆Sunk deep into my soul



            暗いことが悪いことだなんて誰が言ったの

             友だちのいない子をいじめたのはだあれ

              引きつった笑顔をつくろうともしない君

              暗い瞳で虚空を見つめる君の横顔

               好きというだけでなにもできない

                けれども君を大切にしまおう

                僕の心の枯れ井戸深くに

                  ある日ひたひたと遠く

                  水音が聞こえたら

                   僕は君を思うよ

                    君の水脈が

                     僕の心を

                      潤した

                      刹那

                       愛
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  by wind-walker | 2006-02-10 10:01 | 心象風景

幻想譚◆Mermaid's dream Ⅱ

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                箪笥のいない夜更けに

                わたしは廃屋に棲む四つ目と会う

                四つ目を思うとなんだかせつなくて

                夕暮れ時からたまらない気持ちになる 

                廃屋が見える路地まで来たら

                心臓が喉元までせり上がってきた



                四つ目はむかし神様だった

                節分の日に桃の木の弓で鬼を追った

                四つ目はときどき 

                追われる鬼に噛まれた傷を

                月光にさらしてヨモギで撫でた



                ああ 四つ目四つ目とわたしは囁く

                四つ目の頬は青白く 

                首筋は硬い木の肌のようだ

                ポケットに忍ばせた一つの林檎を

                四つ目と二人でこっそり食べた

                かすかな酸味が歯茎に残る

                いけない気持ちは微塵もなかった

                親密でいることが心地よかった



                四つ目は荒れた庭先に

                林檎の芯を放り投げ

                枯れ枝にかかる月にそっと手を翳した

                わたしはそれから髪を解き

                波の音が聞こえてくるまで

                四つ目の胸に耳を当てた



                「きみが人魚じゃなかったら

                ぼくらはきっと普通に出会って

                普通に林檎をかじってただろう」



                四つ目の言葉にずきんとした

                わたしが人魚じゃなかったら?

                そんな仮定はあり得なかった

                わたしは人魚で あなたは四つ目

                この世の初めから決まっていたこと



                百年前にも同じ台詞を

                どこかで言われたような気がした

                迷い猫が草むらの奥で

                死んだ児の声そっくりに

                オオアアアルと哀しげに鳴いた
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  by wind-walker | 2006-02-03 22:29 | 心象風景

箪笥◆Mermaid's dream

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               箪笥はいつも 夜更けに戻る

               鼻歌まじりに 廊下を歩き

               暗い風呂場で くしゃみする

               畳2枚分 離した布団に

               ドーンと倒れて いびきをかく

               酒の臭気に 眠りの鎖が

               千切れて跳んで 見えなくなった



               箪笥は昔 イルカだった

               イルカの箪笥は 愛嬌たっぷり

               波間に顔を 覗かせて

               わたしの足を 鼻で突付いた

               時には背中に わたしを乗せて

               遠い波間に 漂う月を

               夜が明け染めるまで 追いかけた



               箪笥は今は 箪笥になって

               重い引き出しに まだ物を詰める

               箪笥はものが 言えなくなり

               言葉はすべて 擬音になった

               それでも手のない 箪笥のために

               時には背中を 掻いてやる

           
               ああ 天窓に今夜も月が来て

               波打つシーツは 海原に変わる

               わたしは夢の中で 人魚になり

               ひとり 波間の月を追いかける
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  by wind-walker | 2006-02-02 22:40 | 心象風景

14の夕暮れ◆Running away

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        はじけた言葉の勢いで  

         ドアを蹴って飛び出した 

        夕暮れの空に浮かぶ金星  

         ポケットには月の石



                 言わずにいさえすれば  

                 通り過ぎた一日

                 ひと言で変わった運命  

                 ねぐらのない日々の始まり



                              夢の風景の中に  

                               すべらかに溶け込もう

                               ただの影法師になって  

                               誰にも気づかれないように



        走れ 銀の自転車  

        どこか知らない街へ

        緑濃い公園を見つけたら  

        片隅のベンチで涙を流そう

        ひっそりと  声を殺して
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  by wind-walker | 2006-01-21 00:53 | 心象風景

生きる◆Beyond the limit

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           苦悩の果てに 見えたもの

             路傍に咲いた 一輪の花

           寝待の月に 愛を問えば

             答えは漂う 青き闇に



                     さんざめく 人群れを背に

                       歩んだ日々は 遠き彼方へ

                     輪廻の苦難 越えゆきて

                       ガラスの心に 満たせ光を



            灯火を手に ともに進もう

               憂いを友とし ここより永久に 
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  by wind-walker | 2006-01-20 23:24 | 心象風景

夕景◆In the twilight

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          なぜだか自分は

          昼と夜のあいだの薄暗がりにいて

          テレビから流れる声を

          聞くともなく聞いている

 

          闇が部屋まで迫ってくると

          追い立てられるように

          まだ明るさの残る通りへ出て

          自転車が走り去るのを遠目に見る

 

          こうしているあいだにも

          わたしの時間は流れ去り

          悲哀も愛も災いもない一日が

          白紙の日記に追加される



          せめて寄る辺ない今日の最後に

          夕陽の色で瞳を染めて

          どこかにいるもう一人のだれかを

          夢のなかで抱いてあげよう
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  by wind-walker | 2006-01-16 22:49 | 心象風景

聖と死と◆Death and his moment

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         マンジュシュリ・ミトラの死んだ朝

         わたしは聖河で衣を洗った

         水の底でゆらめく草が

         女の黒い髪の毛に見えた

         空はおぼろな光に満ちていた

         初夏の風が岸辺でそよいでも
    
         花の香一つしなかった



         マンジュシュリ・ミトラの死んだ夜

         わたしは部屋でラジオを聴いた

         DJのうそぶく軽口が

         なぜだか厳かな楽曲に聞こえた

         この世は危険な陥穽ばかり

         赤ん坊の寝顔に口づけしても

         乳の香一つしなかった



         マンジュシュリ・ミトラの死んだ日に

         思ったことはただ三つ

         いつまで明日があるだろう

         いつまでここにいるだろう

         あなたはどこへいくだろう
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  by wind-walker | 2006-01-16 22:34 | 心象風景

孤独◆Solitude

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               まろやかなもの

               あたたかいもの

               いたいけなもの

               たおやかなもの

               人からくるそれらのものに

               無反応な者がいる



               おんなたち

               おばさんたち

               おかあさんたち

               ちのみごたち

               それら丸みを帯びた者たちから

               遠ざかる者がいる



               その者はかれらのなかで

               身を硬くして縮こまる

               異教徒の国に生まれた

               みなしごのように



               その者の孤独は

               かれらにはわからない

               なぜなら丸みを帯びた者たちは

               シャボン玉のようにいともたやすく

               くっつき合うことができるからだ
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  by wind-walker | 2006-01-10 21:14 | 心象風景

空◆Clouds in my mind

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       空ばかり見つめていた日々があった

       雲が流れていくのを目にするだけで 心が満ち足りた

       父の大きなサングラスをかけて 屋上に寝そべった

       雲が七色の光に輝くのが ただただ不思議でならなかった



       心が空で 去来する雲が感情だと気づいたのは

       ずっと後のことだった

       わたしの空は たいていいつも曇っていた

       曇っているのは 自分のせいだと感じていた



       自分が嫌いだった 自分が汚いものに思えた

       それでも自分を捨て切れなかった

       どこかで自分を愛していた 

       きっと黒雲は去っていくと わたしのどこかが信じていた



       空いっぱいに暗雲が垂れ込めても

       きっといつかは晴れ上がる

       そうでしょう・・・?



       わたしが出会いたかったのは たった一つのもの

       蒼いキャンバスこそが心だと 教えてくれたもの

       雲は「わたし」ではないと 気づかせてくれたもの




  

       昨日はすばらしい夕焼けでした
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  by wind-walker | 2006-01-10 21:02 | 心象風景

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